正倉院には、18種75点(残欠を含む)の楽器が伝来している。その中でも、インド系直頸琵である五絃琵琶(螺鈿紫檀五絃琵琶)の実物が現存する。バチがあたる部分(捍撥)に、ラクダに乗った人物が曲頸の琵琶を弾く姿が螺鈿で表現されており、西域に由来するにひがいない。この五絃琵琶のための楽譜『五絃琴譜』(陽明文庫)が残されている。成立は平安時代中期以降だが、所収曲は奈良時代末期か。所収二十二曲は、大半が八世紀ごろに唐の宮廷で行われた法曲・胡楽であった。日本に伝来した胡楽すなわち西域系音楽である。
一方、正倉院には、「瑇瑁螺鈿箜篌」と称する箜篌(くご)の残欠も保存されており、
それを「百済琴」と称した。箜篌すなわちハープである。
『倭名類聚集』4琴瑟に、
「箜◆(竹+侯) 唐韵云 箜篌 (空侯二音 俗云如江湖二音、楊氏漢語抄云 百済琴也 和名久太良古止) 楽器也」
とある。 「百済琴也 和名久太良古止」とあることで、「くたらこと」と読んだらしい。濁音ではなく、清音。俗には、「江湖」とあるので「コウコウ」と称した。
さて、後漢の古詩「孔雀東南飛」には、
「十三能織素、十四学裁衣、十五弾箜篌、十六誦詩書、十七為君婦」
とあり、箜篌は女性の嗜みであったようだ、『後漢書』五行志には、
「霊帝好胡服、胡帳、胡状、胡飲、胡箜篌、胡笛、胡舞、京都貴戚皆競為之、此服妖也」
とあり、中国でシルクロードブームが起きていた。
さて、『文献通考』楽考には、
「高麗等国、有箜篌臥箜篌之楽、其引則朝鮮津卒霍里子高所作也」
とあり、朝鮮に伝播していった。
信西古楽図
- 江戸時代 宝暦五年(一七五五) 原本:宝徳元年(一四四九)
- 紙本墨画
- 所蔵 東京藝術大学大学美術館
ちなみに、朝鮮半島には、百済式箜篌は現存しない。しかし、江原道上院寺銅鐘に刻印された、
には、朝鮮式ハープを認める。
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