2022年7月4日月曜日

朝鮮本書誌学的データベース構築のために

 

朝鮮本書誌学的データベース構築のために

 

松原 孝俊

 

目   次

(1)はじめに

(2)研究の方法と取得データ数

(3)各活字の使用時期について(『韓国の古活字』との比較一覧表)

(4)活字別の使用年代グラフ

(5)活字の使用の変遷について

1)                                                                                               甲寅字使用年代グラフ

2)                                                                                               戊申字使用年代グラフ

 

 

(1) はじめに

 『高麗史』によると、1392年(恭譲王4年)に高麗政府は書籍院を設立し、そこで金属活字を作らせて、書籍を印刷したとある。今年(2005年)に至るまで、すでに600年以上の活字印刷の歴史を有している朝鮮半島であるだけに、活字版にしても多彩である。古くは前間恭作に始まり、最近では千恵凰の研究で集大成されたが、大小各種の銅活字(朝鮮では「鋳字」と称す)・木活字(別名、「木鋳字」)を使用した活字版の数は、四万Titleとも五万Titleとも推定されている。

 小中華思想に染まった朝鮮王朝時代に刊行された活字版は、当初から中国活字版の強い影響を受けていた。1434年に明国から授与された『孝順事実』や『論語』などを字本にして、不足は晋陽大君の字本で補った鋳字(甲寅字、衛夫人字)20万余字は、そもそも明朝初期の官板と同種であった。また1450年に作製された王子安平大君の字本「庚午字本」にしても、『古今歴代十八史略』(文宗元年8月、足利学校図書館所蔵、10巻10冊)などを見る限り、趙子昴風の行書に類似している。題箋、表紙の色合い、見返し、版形、版心、版心題、界、装幀などにしても、同時代中国本(いわゆる唐本)の流行を模倣したものが目に付く。

 たとえ中国風の活字版であったとしても、ともかく朝鮮では各種の活字が意欲的に制作された。千恵鳳によると、金属活字は40種・木活字は25種に達するという(千恵鳳『韓国金属活字本』汎友社、1993年)。したがって官版にせよ、祠院版にせよ、地方官衙版にせよ、私家版にせよ活字を分類しながら、書誌データを作成することは、朝鮮文献学における常識である。

 ところで朝鮮活字研究の到達点を探るとき、多くの研究は、一つ一つの活字の来歴を中心として、論を展開してきた。『朝鮮王朝実録』所載の関係記事(「太宗実録」巻5,3年2月庚午条など無数)、あるいは『(整理字版)国語』(咸豊9年7月内賜本巻末、浅見文庫所蔵<現在、UC Berkeley東アジア図書館>)などの識語(『弘斎全書』163、「日得録」3と同文)、また『弘斎全書』179、「群書標記」1などのリスト、さらには鄭元容の『袖香編』6,加えて「書冊頒賜」条、『鋳字所応行節目』(「節目」とは、目録の意)などを一覧しながら、活字の制作年を探り、そしてその同一活字で印刷された若干の刊本を列挙するにとどまった。そもそも朝鮮活字版の史的研究に関しては、すでに前間恭作による概説があり、今日に至るまでその見通しはほぼ正確であり、いくつかの補訂、詳細を追加するだけである(前間恭作『朝鮮の板本』松浦書店、1937年。金斗鐘『韓国古印刷技術史』探求堂、1974年。千恵鳳『韓国典籍印刷史』汎友社、1990年など)

 そこで、本研究では、韓国におけるソウル大学校奎章閣、韓国国立中央図書館、蔵書閣(現、韓国学中央研究院所蔵)の3大コレクションのデータベース化に着手した。得られたデータ数は、

1、奎章閣蔵の活字本3157種、木版本4067種、

2、蔵書閣蔵の活字本1457種、木版本1242種、

3、国立中央図書館蔵の活字本4693種、木版本1512

であり、今回作成したデータベースにおける総数は、

活字本9307種、木版本6821種、総計16128

である。この三図書館所蔵書籍数だけで、朝鮮半島や国外にある総書籍の何パーセントに該当するのか不明であるが、本研究調査の方法は、確率の高い概算をするに適切であろうと信じる。

そして、格納された書誌情報を元にして、

  甲寅字(初鋳甲寅字本から六鋳甲寅字)や乙酉字(世祖11年<1465>制作、鄭蘭宗字本)などで制作された個別の活字版集成

  活字版の開始と終了時期の見通し(成俔『慵斎叢話』巻7、活字条など)

  活字別の刷出時期調査、ピーク時と刊行のない時期など

  活字別による官版、祠院版、私家版などの分類と刊行数

  地方版を取り出すことで、地方別特色の把握

  活字版と刻版の対照・比較研究

  従来、版心や魚尾による年代推定を試みた韓国書誌学通説の再検討

  四色党争による老論派や少論派など政治的Action Group別の活字使用

  『論語集注』『資治通鑑』のように、活字版・刻版を問わず複数回印出した同一書籍の、刷出変遷史を論究すること

などなど、各種の考察が可能となるはずである。詳細な考察は後日に委ねたいが、本研究調査報告書では、その中の一つの研究項目である、活字別刷出時期をグラフ化することで、容易に刊行時期を観察できるように心がけた。その結果、活字が制作されて、その当初に大量に刷出されるという常識を覆して、時期別に大きく変動することが判明した。

 2004年度の単年度研究調査では、時間的制約のために、これ以上の調査や考察を展開できなかったが、今後、蓄積された書誌データを元にして、少しずつ韓国活字版研究を深化させていきたい。

  本研究は、『朝鮮本に関する書誌学的データベースの構築』“Construction of Bibliographic Datebase Conserning Korean Books”特定領域研究「東アジアの出版文化の研究」公募研究G「出版情報・書目研究」[課題番号15021219]の平成15年度~16年度研究成果の一部である。末尾ながら、今回の研究調査において、多数の方の助力を得た。一人一人のお名前を列記しないものの、深甚の感謝の意を表したい。

 

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