2025年1月19日日曜日

長谷川伸「瞼の母」

 長谷川伸の名作「瞼の母」とか「番場忠太郎」・「一本刀土俵入」などは現代の小説愛好家の視野から遠ざかっている。一昔前の「股旅物」だとして、ナウいコンテンツではないとして取り扱われているようだ。長谷川伸が取り扱ったテーマは義侠心であり、「瞼の母」である。事実、長谷川伸自身も3歳で母と生き別れをした。それゆえに円満な家庭ではなく、母親に捨てられた子供・母親の愛情に飢えた男が主人公であった。しかもサラリーマンなどのどこにもある平凡な職業ではなく、相撲力士や任侠など社会の周辺で動き回る俗人に焦点を当てて、日常生活の中で「欠けたるもの」の補完を求め続けた。

 しかしながら時計の針が戻らない限り、終生「欠けたるもの」を埋めることなく、人間は前を向くしかない。そのポッカリとした心を埋める物は不在のままで、その代償として社会への挑発を続ける。


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