2022年4月19日火曜日
台湾・朝鮮・中国に残置された和本の所在情報研究
2001年6月17日(日)
文部省特定領域研究「東アジア出版文化の研究」第1回研究集会
台湾・朝鮮・中国に残置された和本の所在情報研究
松原孝俊(九州大学大学院言語文化研究院) (1) はじめに
前近代朝鮮を考えるとき、蔵書印を押した書籍の残存の多さから想定して、郎善君・洪有渠・金正喜を始めとして多数の蔵書家が存在したと推定できるが、不思議なことに彼らの蔵書目録は殆ど残されていない。そうした現状を知るだけに、「清朝学移入者・建設者」(藤塚鄰)であった19世紀の文人金阮堂(1786~1856)自筆の所蔵目録(張澤相氏所蔵―1975年当時)は貴重である。藤塚によれば、数万巻に達する彼の蔵書であったが、すでに散逸しており、自筆所蔵目録も彼の蔵書の一部に過ぎないそうである。この自筆目録と、藤塚によって収集されたリストを加えて作成された「金阮堂旧蔵蔵書目録」が、幸いにも我々の手にある。その数は、約580種。
個人蔵書目録がそうであるように、金阮堂の識見・関心分野・読書傾向を用意に推測できるが、彼の収集癖の一端を伺うと、中国本・朝鮮本に混じって、決して多くはないものの日本人の著作物が見出せる。次の本である。
1、『南郭集』8冊(服部南郭著)
2、『徂徠集』18冊(荻生徂徠著)
3、『論語古訓』5冊(太宰春台著)
4、『童子問』3冊(伊藤仁斎著)
〔「金阮堂旧蔵書目録」『清朝文化東伝の研究』(藤塚鄰著)国書刊行会、昭和50年、507~527頁〕
1、『南郭集』8冊(服部南郭著
2、『徂徠集』18冊(荻生徂徠著)
3、『論語古訓』5冊(太宰春台著)
4、『童子問』3冊(伊藤仁斎著)
一方、決して多くはないものの、日本側の記録にも、日本から朝鮮半島に渡っていった
和本の名称が見出せる。
① 対馬藩の宗家記録
1、『遊仙窟』(和刻本、『朝鮮方日記』宝永2年<1705>6月15日)
2、『類合』『千字文』『中庸』『押絵』(朝鮮本、『朝鮮方日記』正徳3年10月15日)
(2) 台湾・朝鮮半島・中国に持ち込まれた日本語書籍
① 台湾――1、台湾総督府図書館(1915年8月開館)ほか93館の公共図書館
総蔵書数:306849冊(昭和17年3月現在)
2、台北帝国大学図書館(1928年4月開学)―総蔵書数:約47万1千冊
3、台北高等学校・台北高等商業学校・台北医学専門学校などの高等教育機関
② 朝鮮半島――朝鮮総督府図書館(1923年開館)・地方図書館・朝鮮総督府鉄道局鉄道図書館(1925年4月開館)、京城帝国大学(1926年5月開学)など
③ 中国――大連図書館・奉天図書館ほか23館の満鉄図書館(1910年~。大連図書館は1918年開館)・満州国立建国大学(1937年開学)
(3) 台湾
1、 国立台湾大学――日本の古典籍(明治以降の和本を含む):1~20292
① 現在把握している和本の冊数は、20292冊(2001年6月14日現在)
② ただし漢籍に紛れている和刻本は未調査
③ 医学院に所蔵されているという本草類は未確認
④ 桃木武平文庫(562種4852冊)・上田万年文庫(331種331冊)・長沢伴雄文庫(502種1626冊)・糸綴本(2272種・8598冊)
2、 笠井和比古氏調査:2001年2月20日国際日本文化研究センター研究会配布資料
① 中央研究院歴史語言研究所傳斯年図書館――261点の和本
② 故宮博物館図書館――楊守敬旧蔵本を中心に所蔵
③ 台中市図書館、別館――約3万冊は洋装本、和本は「江戸写本が数点」
④ 台南市図書館――すべてが洋装本
⑤ 台湾省文献委員会――「湾総督府の行政文書を大量に所蔵」
⑥ 国立中央図書館台湾分館――約10万冊の洋装本
⑦ 国立中央図書館台湾分館――約5千点の和本、約4万冊の洋装本
(4) 朝鮮半島
1、 京城帝国大学
① 1945年当時の蔵書――55万2006冊
② 現在把握しているソウル大学校中央図書館所蔵和本は、約2100種(2001年6月14日現在)――(『ソウル大学校中央図書館所蔵日本語古典籍目録』韓国及び中国に残置された日本語古典籍・日本史関係史料調査とその情報化に関する研究会、2000年3月、176頁参照のこと)
③ 合巻コレクション:812種(「ソウル大学所蔵合巻を中心にして」『国文学』2001年6月号)
2、 朝鮮総督府図書館
① 1945年当時の蔵書――28万4443冊
② 現在把握している韓国国立中央図書館所蔵和本は、約8000種(2001年6月現在――崔京国・松原作成の仮データベース)
③ 1932年1月当時の和本――約6万8千冊(『文献報国』)
3、 鉄道図書館
① 1945年当時の蔵書――23万5193冊
② 朝鮮戦争によって甚大な被害を受け、ほとんど散逸したという。
4、 釜山府民図書館(1901年開館)
① 1945年当時の蔵書――約22413冊
② 現在把握している釜山広域市立図書館所蔵和本は、約3000種。
(『古書目録』)1995年4月刊)
(5) 中国――旧満州を中心として
①図書館
1、 満鉄大連図書館
2、 満鉄奉天図書館
3、 建国大学図書館――
②中国東北部での調査
1、 遼寧省立図書館所蔵和本目録――
2、 吉林大学図書館
(6)個人蔵書の復元の試みーー藤田亮策蔵書(1922年3月~1945年11月まで韓国に滞在)
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