2023年5月27日土曜日

林羅山さん、あなたの幸せはなんだったの。

 天賦の才に恵まれ、教育の機会に恵まれ、時の運に恵まれ、万巻の書との出会いに恵まれ、師に恵まれ、出世の運に恵まれ、時の指導者の寵愛に恵まれ、さらに家族に恵まれ、健康に恵まれ、当時にあって長寿に恵まれた林羅山。

1659年正月23日、羅山、逝去。その75年間の生涯は果たして幸せであっただろうか。

今、鈴木健一著『林羅山年譜稿』ペリカン社、1999年を読み、改めて問いたい。


最晩年、明暦の大火ですべての財産を失った羅山。万巻の書を読み、時の権力者に迎合し、僧侶の姿になり、法名を名乗り、徳川家の命ずるままに仕事に精励する羅山。その結果の報酬は970石余り。

林羅山の幸せは何だっただろうか。

知的探求心を満たすこと、出世欲を満たすこと、金銭欲を満たすこと、顕示欲を満たすことーーー。


寸暇を惜しまず勉学に励み、あらゆる誘惑をはねのけて座学に努め、書を読みて未だ倦まず、大火にあっても一冊の書(『梁書』)のみを携えて逃げ、そして妻に先立たれ子や嫁に先立たれた羅山。


酒池肉林に溺れるわけでもなく、多数の愛人を持つわけでもなく、雑事に無駄な時間を費やすわけでもなく、奇妙な性癖に財産を浪費するわけでもなく、ひたすら禁欲の身であり続け、書を読み続け、知識の蓄積に励んだ羅山。


主君の心の動きを常に追い続け、見限られないように絶えず主君にへつらい阿り、そして主君に絶対服従の姿を良しとし、主君の言に迎合し反発することもなく、ひたすら出世を願い続けた羅山。

羅山さん、そんな人生で満足だったの。

あなたにとって、自由とは何だったの。勉強秀才として確かに書を読む自由はあった。その比類まれな知識を披露する自由もあった。しかし徳川家の御用学者の道を選択したあなたに、どんな自由はあったの。

羅山さん、あなたにとって、何が幸せだったの。







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